TwitterとJASRACの件で思ったこと

JASRAC関係はいろいろ炎上しやすいけど、今回のはなんかすごいなあ。
著作権の専門家みたいな人があんまり見解を示していないというのもあって、なんか話が変な方向にいってる気がする。

それでもid:heatwave_p2pさんはさすがにすごく冷静に分かりやすく問題を解説してる。
 Twitterの件、JASRACがそんなに筋違いのことを言ってるとは思わないけど - P2Pとかその辺のお話@はてな
 JASRAC x Twitterの件でもらったコメントにお返事するよ - P2Pとかその辺のお話@はてな

僕も昔、法的にはまったく問題ない自分達のバンドのMIDIファイルやMP3ファイルをいつのまにかサーバから消されてたことがあったりしてJASRACはあんまり好きじゃないんだけど、今回はなんか批判の矛先が違うんじゃないのかなというのと、あんまり解決案を提案している人がいないように思ったのでちょっと書いてみた。ちなみに法律については全然専門じゃなくて門前の小僧的に見知った知識を元に書いてるので間違ってたら教えてください。


で、本題。
たぶんだけど、Twitterでつぶやかれた断片的な歌詞から利用料を徴収するなんてJASRACだってほんとはやりたくないと思うよ。全然コストに見合わないもん。でも「利用料を徴収しないための正当な理由」がない限り好むと好まざるとにかかわらずJASRACは徴収しなければならない立場にある、ってことはもう少し知られるべきだと思う。これはもう著作権管理という業務が本質的に持っているものなので、JASRACがどんなにクリーンな団体になっても変わらない。そんなわけでJASRACの常務理事がニコ生に出演した、という画期的な出来事もネットメディアに対する落としどころを模索する気持ちがあったからだと思う。
 
よく知られている話だけど著作権法の30条〜50条には「著作権の制限」って項目があって私的使用目的の複製だとか引用だとかのルールが書かれている。ここの条文に規定されている使い方はOK、書かれていないことはすべてダメ、というのが日本の著作権法の基本的な構造。
 
もうひとつ大事なのは63条で、著作権者は他人に著作物の利用を許諾することができるってやつ。あたりまえすぎてピンとこないね。でもこれがないと他人の作品は利用できないことになるので、コンテンツビジネスは成り立たない。クリエイティブ・コモンズとかのライセンスも日本の著作権法的にはこの63条に従って許諾してることになってる。
 
で、法律条文を素直に解釈すると「著作権の制限」に該当しなくて、かつ許諾されていない利用はぜんぶ権利侵害になっちゃう。JASRACに信託しているかどうかにかかわらずね。
そういう意味でTwitter掲示板への歌詞の書き込みも、私的使用とか引用の要件を満たさないので権利侵害。
権利侵害であるからには、JASRACは自分の管理曲に関して解決を図らなくてはならない。
JASRACの裁量でできる解決方法は2つしかない。使用をやめさせるか、使用料を徴収して許諾を与えるか、のいずれか。(←いまここ)
心情的にはなんかおかしいよね。
おかしいのはおかしいんだけど、「法律条文がおかしい」という話と「違法か適法か」という話は全然別なのでどうしようもない。「悪法も法なり」なので悪法だからといって違法の判断が融通されるわけじゃない。


そんなわけで、いまのところ僕にはTwitterで歌詞を安心してつぶやくための解決方法は3つしか思いつかない。
 
ひとつめは立法的解決で、現行の著作権法は実情にあってないからって法律を変えちゃう方法。
著作権の制限」にウェブでのコミュニケーションの項目を追加するか、米国著作権法のようなフェアユースを導入するか。
ちょっと前まで僕はこれが一番有力だと思っていた。でも、最近の日本版フェアユースの動きを見ているとフリーのウェブサービスなんかこれっぽっちも考慮されないことがわかって、心底残念に思っていた。今回のJASRACの人の発言よりもずっと酷い話なので、怒りの矛先を向けるべきはむしろこっちなんじゃないかな。
 
ふたつめは司法的解決。たとえばTwitterでのつぶやきは非営利かつ無償の公衆送信として38条が適用される、とかちょっと無理のある理由をつけて適法と解釈してしまう方法。ナントカ法理って言われてるようなやつがこれ。そうはいっても法律をそれぞれが自分に都合よく解釈をしちゃうとカオスになるので、判例のお墨付きが必要。
 
最後は許諾しちゃう方法。これが簡単なようで難しい。
いまの商業音楽の大半は、著作権管理をJASRACみたいな著作権等管理事業者に任せてあることは知ってると思う。
ここで著作権等管理事業者のミッションは、著作権者との間の契約内容に基づいて著作物の使用に対する対価を徴収、分配することであって、著作権者との契約内容を無視して勝手に使用料を増減させたりはできない。
JASRACが作詞家本人を差し置いて「君たちの使い方はフェアだからタダでいいよ」とか判断するようになったらそれこそ何様だって感じでしょ。
 
だから作詞家作曲家の人は、JASRACとの契約書に「フェアな使い方なら使用料は無償とする」みたいな条項を書くべきだと思う。アーティストの人はよく「俺たちは使っていいと思ってるのに制限するなんてJASRACは音楽の発展に寄与していないぜ、ファッキン」みたいな発言をしたりするけど、そういう状況にしているのはアーティスト側にも半分責任がある。だってJASRACは契約書のとおりにしか任務を遂行できないのだから。
まあ、実態としては契約の主体はアーティスト本人じゃなくて音楽出版社だったりするし契約内容もJASRACから提示される定型的な契約書だったりするから難しいのはよくわかるけどね。


さて、考えたのはここまで。結論はみつからないけど、JASRACだけを責めてもどうにもならないことは分かると思う。あと僕はTwitterの運営会社が包括契約を結ぶというのは筋が悪いと思っている。だって今あるコミュニケーションメディアやこれから先出てくるもの全てと包括契約を結ぶなんてありえないよ。
 
今回のTwitter利用者の反応を見てて思ったのは、日本には明文化されてないけど暗黙のフェアユースみたいなものがしっかりとあって、著作権法を読まない人たちでも、感覚的にここまではOKここからはNGっていうそれなりに共有された基準があるんだなあってこと。であれば、その感覚的な基準と近いあたりで違法/適法のラインを引くように法律を調整するのがいいんじゃないかなあと思う。