荒れないウェブサービスの作り方
ウェブサービスの運営者はどこも同じような悩みを抱えています。
ユーザーは基本的にコミュニケーションが大好きなのですが、コミュニケーション機能は常に荒れる危険を伴っています。そのためウェブサービスはどこも工夫を凝らしてフレーム(flame)対策をしています。今回はいくつか典型的なフレーム防止のパターンをまとめてみました。
■文字数を制限する
長い文章を投稿できると議論がフレームに発展しやすいため、書き込める最大文字数を制限する対策です。Twitterの140文字という制限は有名ですし、クックパッドの「つくれぽ」はわずか32文字です。pixivのコメントは255文字で比較的多いものの、改行ができないため長文は書きづらくなっています。長文を投稿したいというユーザーからの要望は強いはずですが、これらのサイトはしっかりとポリシーを持ってあえて文字数制限を設定していると思います。
■コミュニケーション機能を目立たなくする
ニコニコ動画は、2ちゃんねるのような形式の掲示板が用意されているものの、そこへのリンクは実に見つけにくい場所に配置されています。pixivでは作品についたコメントは普段は隠されていて、[コメント履歴表示]リンクをクリックすることではじめて表示されます。flick'rもトップページからはフォーラムが目立たないようになっています。
コミュニケーション機能が目に入りにくければ、多少火種が起きてもサイトとしては荒れている印象を受けないし、大きく炎上せずに収束しやすくなります。また、最近は掲示板機能の提供をやめてしまうサイトもあります。
■会話のキャッチボールをしづらくする
議論は反論に反論を重ねていくことでフレームに発展します。そこで何度も反論できないような仕組みにしてしまう方法があります。
はてなブックマークなどのソーシャルブックマークサービスは、コメントに対する反論機能は提供せずに会話のキャッチボールができないようにあえてしてます。クックパッドの「つくれぽ」は、前述の文字制限に加えて写真必須、さらにひとつひとつのレスポンスが別スレッドのように表示され、雑談や議論を防いでいます。
■第三者から流れを追いにくくする
ちょっとした議論が炎上に発展する要因として野次馬が参加してしまうことがあります。揉め事のまとめサイトが流行るのもこういった野次馬の需要を満たすものでしょう。Twitterは本来、他人のタイムラインは非常に追い難い設計になっていて第三者が議論に参加することを防いでいました。今ではハッシュタグやTogetterの登場によりTwitter上の揉め事も徐々に可視化されるようになってきているようです。
■コミュニケーション機能をアウトソースする
これも最近多いですね。コミュニケーション機能を自前で持たずにTwitterのタイムラインを埋め込むような方式です。USTREAMはTwitterと連動するようになって格段に面白くなったように思います。最近何かと話題のDOMMUNEもほとんどUSTREAM動画とTwitterだけのミニマムな構成でできています。
■匿名制にしてみる
実名や半実名であればフレームになりにくいというのは幻想です。かつて十数年前のfjや技術系メーリングリストは実名や所属まで出していましたが、そのような場でも酷い罵りあいはよくありました。
それらを踏まえたうえで2ちゃんねるは設計されています。ひろゆきの発明は、匿名にすることで意見を出しやすくなる→良い情報が集まる、ということと、新参/古参というヒエラルキーができにくい、という点にありました。また匿名によるフレームはある程度の上限に達するとそれ以上悪化しないと見切ったのも当時としては画期的でした。結果として2ちゃんねるは、ある種ブレインストーミングのように、自分のアイデンティティに関わるような批判をおそれずアイデアや意見を出しやすく、誰もが参加しやすいシステムに発展しました。また匿名ゆえに、荒れそうな議論からすぐに離脱できるため、ユーザー同士が延々と罵りあうような光景は実はほとんどありません。
もうひとつの例としてリグレトというサイトがあります。こちらも一種の匿名掲示板です。一往復しかできない一期一会のコミュニケーション設計に加えて、サイトコンセプト、ゆるいデザイン、文字数制限、過去ログを追いにくくする、などの相乗効果もありほとんど荒れません。
■入会者を制限する
かつてのmixiなどが有名ですが、他の会員の紹介によってはじめて利用可能になる、という仕組みで迷惑ユーザーを防止する方法です。個人運営のSNSではいまだにこの方式が多いですね。mixiのもうひとつの工夫としては、ある時期から会員登録に携帯電話認証を必須としたことです。これにより入会のハードルを上げるとともに、迷惑行為目的の捨てアカウントを作りづらくしています。
■文字を書かせない
無言のコミュニケーションという究極の方法もあります。ユーザーから強く望まれた結果、満を持して登場したTwitterの公式RT機能は内容の追加変更が一切できませんでした。Tumblrは短いコメントをつけて投稿することもできますが、多くのユーザーはまったくコメントを書かずにリブログします。それでもリブログしたこと自体が関心を持ったという意思の表れでありコミュニケーションになっています。
はてなスターは画面上に存在する文字列の引用はできるものの自由な文章を書くことができません。技術的にはとても面倒くさいことをやっていますが、これによって共感はできても反論はできないという仕組みになっています。
これらに共通することは、いずれもあえて不便にしているということです。かつて便利と思われる機能をどんどん実装した結果炎上しやすいシステムになってしまった経験から、最近のウェブサービスは巧妙に「不便さの設計」をしています。いかにユーザーに不満を持たれないように不便さを提供するか、がサービス提供者にとって重要な裏テーマになっているように思います。