ぼくのかんがえたネトゲ必勝法

数年前の一時期、オンラインRPGに凝っていたことがある。3Dグラフィックが主流になる少し前でまだグラフィックボードの性能とキャラクターの強さがそれほど相関せず、アイテム課金も一般的ではない、つまり時間をかければ誰でも強くなれる時期があった。これはそんな頃のお話。
 
ところでオンラインRPGは、同じゲームでも国内サーバと国外サーバで雰囲気が大きく違う。日本の場合コミュニケーションに重きをおくプレイヤーが多く、戦闘機能のついたmixiみたいになってしまうのがちょっと負担になって海外サーバで遊ぶことが多かった。海外サーバだと英語ネイティブではないプレイヤーも多いため、必要のないときは喋らずにすむ雰囲気があった。
あるとき海外サーバでアイテムを拾っていたら他のプレイヤーになにか声をかけられた。意味は分からなかったけれど、こんな初心者にもあいさつしてくれるなんて良い人だなと思って、あとで辞書を引いてみると「この売女」みたいな言葉だった。そんなたわいないカタコト卑語で罵りあいながら殺伐とレベル上げをするのはただただ楽しかった。
 
オンラインRPGはそのほとんどの時間をレベル上げ作業にとられる。時間がとれない社会人は圧倒的に不利だ。最近はアイテム課金が多いので社会人は財力に物を言わせて強くなるという身も蓋もないキャラクター育成が一般的のようだが、当時はそういうこともできない。
それでも僕は強くなりたかった。なんとしても強いプレイヤーになりたかった。毎日毎日他のプレイヤーより強くなる方法を必死で考えた。その結果僕はついに確実に有力プレイヤーになる方法を思いついたのだ。
 
そしてある夏の夜、僕は秘密のプロジェクトを決行することにした。
まずは情報収集。毎日海外ゲームサイトや海外ゲーム会社から来るDMに目を通した。そして新しいオンラインRPGベータテスト開始のニュースをひたすら待った。メジャーすぎるタイトルではない方がいい。そこそこ普通に遊べる程度がいい。これだと思うオンラインRPGを見つけたら早速アカウントを取得し、クライアントをダウンロードする。とにかくスタートダッシュ命。情報収集とレベル上げに専念する。
 
レベルが20くらいになった頃、計画は次の段階に進む。
@wikiに解説ページを作った。アカウント取得方法、クライアントをダウンロードしてインストールする方法、初期のマップ解説、公式サイトのキャラクターや武器の説明といった情報を日本語翻訳する。また海外のフォーラムで交わされているノウハウも訳して紹介する。昔も今も何かのネトゲをやりつくして次に没頭するゲームを探しているネトゲ難民は常に存在する。彼らはやり方さえわかれば英語だらけの海外ゲームでも飛びつくであろう確信はあった。
 
Wikiが初心者用ガイドとして十分な内容になったら次はユーザーを集める段階だ。
2ちゃんねるの小規模MMO板に専用スレを立てる。これまでのゲームの不満点を改良したとても素敵なゲームだということを魅力あふれる文で紹介する。>>1の文章を考えるために何度も何度も推敲を繰り返した。実際のところ当時のオンラインRPGはどれも似たり寄ったりで、プレイヤーが大勢参加すればどんなゲームでも面白くなったのだ。そのためゲーム会社の営業マンにでもなったかのようにひたすら楽しさを強調した。
掲示板で質問が書き込まれると回答し、WikiのFAQに追加する。ゲーム内で初心者らしきプレイヤーがいると積極的に声をかけパーティーに誘う。いらなくなったアイテムを分けてあげる。効率の良い狩場を教えてあげる。そうやって楽しい体験をさせていき、徐々に日本人プレイヤーを増やしていった。
 
そうこうしているうちに日本人ユーザーはとても多くなった。彼らから見ればすでにレベル40にも達している僕は雲の上の存在だ。圧倒的な力の差、知識の差、経験の差を感じるに違いない。海外プレイヤーにはもっと高レベルのキャラクターもいるが、少なくとも日本人クラスタの中では自分が一番上だ。どうだ見たか。ついに僕は念願の最強プレイヤーになったのだ。もうnoobとは言わせない。
でもまあ、そんなことをやっているうちに解説Wikiの更新が忙しくなってどんどんレベルを抜かされていくのだが、それはまた別のお話。