北大でロケットの話を聴く

 天気が良いのでロケットの話を聴きに行った。北大工学祭のイベントCAMUIロケット開発者の永田先生とSF作家の野尻先生の対談だ。
 
 実物のCAMUIロケットは全長がおよそ3メートルで外径はペットボトルとさほど変わらない。大学発の宇宙機器特有の手作り感と精密さが同居している。しかし人工衛星太陽電池パネルの繊細さにくらべるとさすがにロケットはタフな面持ちだ。ロケットに搭載するアクリル燃料は一見すると強大なエネルギーを生み出す物質にはまるで見えない。白く半透明をしたやや平たい円筒形の樹脂はちょうど数百倍に巨大化したワイシャツのボタンのようだ。これらを目の前にしてリアルな開発と空想の話が絡み合う。エキサンエキスイヒスイリョクといった普段生活している上では絶対に発音しないような専門用語が心地よい。お互い別の分野で活躍していても、何の前置きもなくそれらの用語で対話できる登壇者同士の関係を少しうらやましく思う。
 
 対談を観終えて外に出ると、ふたたび大学祭のにぎやかな雰囲気に包まれる。いったいどういうコンセプトなのか世界各国のめずらしい料理の模擬店が立ち並んでいる。アジアやアフリカの名も知らないような具材が大鍋で調理されていてどれも魅力的だ。坦々麺にするかそれともパエリアが良いか。
 
 昼食をどうするか考える間少し休むことにした。北大のキャンパスは緑が多い。木立や水場があり観光客や地元の人達が思い思いの時間を過ごせるようになっている。散歩の途中という風情の老夫婦が休憩していたり小さな子供をつれた母親がオシドリの泳ぐ様子を眺めていたりする。
 芝生の上に座ってサインしてもらったばかりの文庫本を開く。正午ではあるが木陰は涼しい。この短編小説にはCAMUIロケットが実名で出てくる。舞台も北大がモデルになっている。大学の学食に貼りだされたロケット利用アイデアの公募ポスターがきっかけで女子学生が宇宙を目指す話だ。凧につるされたゴンドラに乗り込みCAMUIロケットを携えて空に浮んでいく様子が理知的な文体で描写されている。作家みずから描いた設定イラストを見たばかりなので繋留気球やトラスフレームがイメージしやすい。それはそのまま挿絵にできるくらい緻密で魅力的な画風だった。自分がちゃんとイメージできているか確かめるためにイラストを描くのだという。
 大樹町から離陸した凧は蜘蛛の糸よりも細い繊維でできた薄膜に上昇気流を受けて中間圏までのぼっていく。遠くの方からブルーグラスの音色とシシカバブの匂いが風に運ばれてきた。そろそろ腹も本格的にすいてきた頃だ。
 やっぱり昼飯は学食で食べることにしよう。
 

沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)


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