プログラマーが知っておくべきうつ病の知識

少し前にITproにプログラマーは「こころの病」にかかる比率が高いという記事が載っていましたが、あらためて言われるまでもなくプログラマーがストレスで精神を病んで離脱するケースは自分の周りを見ても非常に多いです。こんな状況であればプログラマーに対する危険手当やプログラマー専用うつ保険とかあっても良いと思うのですがなかなか社会は変わらないようです。
このような状況に対抗するにはプログラマー自身が自衛のために知識を得ることだと思います。プログラマーの武器は知識であり、ハックする好奇心なのだから、あらかじめ十分な知識を身につけて不当なストレスに対して有利に戦いをすべきなのです。
 

1.判断力低下は想像以上に怖い

うつで一番恐ろしいのは、気分が憂鬱になることではなく、判断力が低下することです。
判断力が落ちるとどうなるかと言うと、自分が健康なのかどうか判断できなくなり、仕事を休むべきなのかどうかで判断を誤り、病院に行くべきなのかどうかで判断を誤り、良い医者かどうかで判断を誤り、周りの助言は正しいのかどうかで判断を誤り、自分は絶望的な状況にあるのかどうかで判断を誤り、生きるべきか死ぬべきかで判断を誤ります。
そういったときに自分の健康状態を把握するのは大変難しいということを認識した上で、たとえば、一日に5通メールが書けなくなったら要注意とか、未処理の案件が5件以上何日も手付かずでたまるようになったら通院するなど定量的に判断できる基準を作っておくと良いと思います。
 

2.カウンセリングという幻想

うつはカウンセリングで治すものではありません。ただの「悩みごと」ではないので相談ではなく治療に取り組むべきです。
世界のどこかにはカウンセリングで劇的にうつを治す先生もいるかもしれませんが、日本で頻繁に通院することができて保険が適用できて怪しくないカウンセラーをうつ状態の本人が見つけだすのは大変困難です。少なくとも私のまわりではカウンセリングのみでうつを克服した人は見たことがありません。
 

3.薬を飲むと半年で治る

服薬治療を忌避する気持ちも理解できなくはないですが、本を読んで知識を得れば得るほど、うつの治療には服薬が良いことがわかると思います。薬を飲むことは健康回復への最短の道であり、しかし最短の道でも治るまでには半年程度かかると最初に認識しましょう。
 

4.薬を飲まないと治るまでに数年かかる

どうしても薬が嫌であれば、ストレスがかからない状況で安静にしていることでたぶん治りますが、それには数年かかると思います。普段、風邪くらいしか病気になったことのない人は、治るまでに数ヶ月〜数年かかる病気が存在するということをなかなか実感できないかも知れません。
 

5.治療のセオリーを知る

うつ治療のセオリーは、投薬開始後数週間程度様子を見て効果があらわれないようであれば別の薬に変えてみて、ということを繰り返し、最終的に最適な薬を適用するというものです。これは、うつの薬は定番が何種類もあるものの、患者によって効果が出るものが異なるからです。
また、問診では話の内容をあまり聞いてくれていないように感じることもありますが、精神科の医師は、内容そのものだけでなく、表情や話し方、問いに対する受け答えの的確さのような部分を観察していたりします。また、判断力が落ちているあなたの考えを否定することも多いと思います。
この段階で薬漬けとかヤブ医者とか判断してしまう人が多いのが大変残念です。最初に書いたように自分の判断を信頼しすぎず、また医者にカウンセリングを求めすぎないようにしましょう。
また、何と言う薬を試して最終的に何と言う薬を飲み続けることになったのか記録しておくと、数年後に再発したとき効率よく治療を受けることができるのでお勧めです。
 

6.予防には認知療法おすすめ

それでも薬はちょっと……とか、まだ通院するほどじゃないという人のために認知療法*1という手法がおすすめです。
ちょっと乱暴にイメージで伝えると、プログラミングにおけるXP、タスク管理におけるGTD、生産管理におけるTOCが登場したときのような画期的な手法で、いくつかのプラクティスを実践すると不思議なくらいストレスなく生きられるという、まさにギーク向けのメンタルハックです。
たとえばうつ傾向の人に「深刻に考えるな」という助言は何の役にも立ちませんが、認知療法では、ロジカルに思考して状況が深刻ではないという結論を導くトリプルカラム法というプラクティスを用意しています。また、手付かずの仕事がたまるのは、難易度、満足度を自分の中で不当に見積もっているためであるとして、それを適切に見積もるための手法もあります。
深刻な状態の人は専門医の治療を受けるべきですが、比較的健康な状態のときにこのへんの知識を得ておくことは、うつを予防して健康を維持することに役立つと思います。
認知療法に興味があれば、原典であるデビッド・バーンズ博士の本『いやな気分よ、さようなら』や、2ちゃんねる 認知療法スレッドを見てみてください。
 

*1:その後、認知行動療法という呼び方が一般的になりました