今夜わかるFM音源

reface DXいいですね。あえてDX7シリーズに近い音源仕様と、現代的な使いやすい操作性とを組み合わせることで、FM音源本来の音作りの楽しさがあります。とはいえ、先日Web Music Developer Meetup@Sapporoの参加者と話して、こういったイベントに参加するような人でも、FM音源でイメージどおりの音をつくるのは難しいと感じる人が多いようでした。そんなわけで、今回はちょっと実践的な音作り方法について書いてみようと思います。
 

■キャリアとモジュレータ
FM音源はオペレータと呼ばれる発振モジュールを組み合わせて音をつくります。変調される側をキャリア、する側をモジュレータと呼びますが、これは相対的なもので、アルゴリズムによっては変調されたキャリアがまた別のオペレータのモジュレータになることもあります。
 
と、いうようなよくある説明を読んでもなかなか音色にむすびつかないですよね。ここでは、自分の場合の音作りのワークフローを例に説明していきます。

 

■ハープの作成
最初の例としてハープの音をつくることにします。オーケストラの後ろの方で優雅にポロロンと弾いているあれです。
 
1. アルゴリズムの選定
音色の特徴はアタック時の波形とサスティン時の波形にあらわれやすいです。一般的にアタックは倍音やノイズを多く含み、サスティンは倍音が少ないので、アタックの音色とサスティンの音色を別々につくって最後にバランスをとる、という進め方がおすすめです。

 

こういった考え方の音作りに一番便利なアルゴリズムは8番です。アタック用とサスティン用にキャリアとモジュレータが一組ずつ使えます。実際プリセットもこれを使っているのが多くて、DXの音として名高いエレピやマリンバのプリセットもこのアルゴリズムです。


図を見てわかるように最終出力につながるオペレータが2個あります。これが1個のアルゴリズムはエグい音用、2個は汎用的、3〜4個になるとオルガンやパッドのような音、というような大まかなイメージです。


2. エンベロープ仮設定
reface DXのEGはDX7と同じくパラメーターが多くて大変です。なので、初期値としてパラメーターを以下のようにしてしまって、通常はR1(A)、 R3(D)、 L3(S)、R4(R)だけ操作するようにしてしまえれば、一般的なシンセのADSRと同じなので作業のとっかかりが楽になります。その後微調整したくなったときにはじめて他のパラメーターを触るようにします。

 L1:127 L2:127 L3:64 L4:0
 R1:127 R2:127 R3:64 R4:64


今回は、減衰音ということでL3=0にして、サスティン用にオペレータ1の減衰時間R3を長めの50に、アタック用にオペレータ3の減衰時間R3を短めの100にします。あとで微調整するのでここではざっくりの設定です。

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3. サスティン音の作成
さて、ハープのような弦をはじく楽器(撥弦楽器)の場合、弦の振動は正弦波かそれに近いノコギリ波の軌道を描きます。
https://www.youtube.com/watch?v=6sgI7S_G-XI

これはreface DXの場合、FEEDBACKだけで再現できそうです。まずオペレータ1以外のLEVELを0にします。次にオペレータ1のFEEDBACKをそれっぽい音になるまで上げていきます。40くらいが良さそうです。またこのときEGのR1、R3、R4を微調整します。

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ちなみに、キャリアとモジュレータの周波数比の定番としては以下のようなものがあります。reface DXはFEEDBACKでいろいろできてしまいますが、知識として知っておくとなにかと役立ちます。

 ・ノコギリ波 1:1 ブラス、ストリングス
 ・矩形波 1:2 クラリネット、笛、レトロゲーム
 ・金属音 1:3.5


4. アタック音の作成
こんどはオペレータ1のLEVELを0にして、代わりにオペレータ3のレベルを上げてアタック音を調整します。ハープは、指で弾くためアタック時のノイジーな高周波はほぼゼロと考えてよさそうです。
次にハープの構造をググって調べます。奏者のおねえさんが抱えているあたりに、アコースティックギターのような共鳴胴とサウンドホールがあるようです。ということは箱が共鳴するような中域が響く音だと予想できますね。中域が共鳴する音は矩形波で再現しやすいのでオペレータ3のFEEDBACKをマイナス方向に下げていきます。-74にするとそれっぽくなってきました。EGのR1、R3、R4も同様に微調整します。R3は83くらいが良さそうです。

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5. エフェクトの設定
 ハープはコンサートホールのようなところで鳴っている音がなじみ深いので、深めのリバーブをかけます。

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6.最終調整
サスティン(オペレータ1)とアタック(オペレータ3)とのレベルバランスをとったら完成です。今回はオペレータ2と4は使いませんでした。もう少し倍音を加えたいときに少しずつ上げるようにして使います。

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reface capture用QRコード


■ストリングスの作成
次はストリングスを作ってみます。オーケストラ風の存在感のある音を目指します。


1.アルゴリズムの選定
ストリングスの音はバイオリンやチェロなどたくさんの音が一斉に鳴っているところに特徴があります。そんなわけで全部のオペレータを並列に鳴らすアルゴリズム12を選びます。


2.エンベロープ仮設定
ストリングスは持続音でアタックが遅いので全部のオペレータを下のようなエンベロープにします。
 L1:127 L2:127 L3:127 L4:0
 R1:70 R2:127 R3:127 R4:90

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3.サスティン音の作成
バイオリンのような弓で弾く擦弦楽器の弦の振動は、典型的なノコギリ波の軌道を描きます。
https://www.youtube.com/watch?v=6JeyiM0YNo4

今回も鳴らすオペレータ以外のレベルをゼロにして、すべてのオペレータひとつずつのFEEDBACKをそれっぽい音になるまで上げていきます。60くらいで良い感じになりました。

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4.オクターブの調整
 オーケストラの弦楽器構成を想像して、低域、中域、高域にオペレータを振り分けます。オペレータ1のFREQを0.50、オペレータ2と3のFREQを1.00、オペレータ4のFREQを2.00にします。これで2オクターブに渡るユニゾンになります。

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5.厚み・広がりの調整
ピッチやタイミングが正確すぎると、たくさんの音が鳴っているようには聞こえません。プラスマイナス10くらいの範囲で各オペレータのデチューンを設定することで音に広がりが出ます。また、EGのR1(アタック)、R4(リリース)を微調整して適当にばらけさせました。

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6.エフェクトの設定
さらにたくさんの音で鳴っている効果をつけるため、コーラスエフェクトをかけます。ふたつめのエフェクトは、こちらもコンサートホールの響きを再現するためリバーブをかけます。各オペレータのレベルバランスも調整したらこんな感じ。

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7.最後にひと工夫
これでもかなり良い感じのストリングスですが、アタックのときに弓が弦にこすれるザリッとしたニュアンスを加えてみます。
オペレータ2のFEEDBACKを上げて倍音を加えます。また、オペレータ2のエンベロープを下のようにしてアタックは大きく、サスティンは他よりも小さくなるようにします。


他のオペレータも気持ちR1とFBを増やしてアタック感と倍音を加えます。全体のレベルバランスをとったらできあがり。

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ね?簡単でしょ。

 

次回はピアノの音の作り方とか紹介します。こんなやつ。
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